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【書評】資本主義とは何なのか?【武器としての「資本論」】

今回は白井聡さんの書いた『武器としての「資本論」』をご紹介します。

 

以前このブログでもご紹介した、齋藤幸平さんの『人新世の「資本論」』を読んで以来、「資本論」をもっと理解したいなと思っていました。
そこで、原著の解説本を1冊購入したのですが、これがまた難しい!
Amazonのレビューでは「わかりやすい!」という声がたくさん書かれていたのですが、私にとってはまだレベルが高かったようです・・・。
そんな中で見つけたのがこの本でした。

 

どんな本なの?

本書は、マルクスの「資本論」について、著者独自の解釈や身近な事例などを用いつつ、わかりやすく解説してくれている本です。
著者自身が書いているように、「資本論」をはじめから順を追って説明するのではなく、現代において特に重要な概念に絞って説明してくれているので、初めて「資本論」と接する方でもとっつきやすい内容になっています。

こんな人にオススメ!

本書は次のような方にオススメです。

心に響いたポイント

では、特に本書で心に響いたポイントをご紹介していきます!

イノベーションは人を幸せにしない!

下の図は、個人的にこのポイントの内容をまとめてみたものです。

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近年ITによって、人間の仕事が奪われるということをよく聞きます。
しかし、産業革命やIT化を経験し、現代は数百年前と比べて格段に生産性が上がっていますが、私たち人間の生活が楽になったかというと、現実にはそうなっていない。毎日通勤電車に揺られて会社に行き、遅くまで残業で仕事をしているわけです。これはなぜでしょうか?

まず、資本主義社会において、資本(または富)はどうやって価値を増殖していくかを考えてみます。
例えば、ある商品を作るのに1万円かかったとします。これを1万円で販売しても、ただの等価交換で価値は増えません。よって価値を増殖させるために資本家は、この商品を最低でも1万1円以上で販売する必要があります。ではなぜ、1万円の価値しかない商品を1万1円以上で販売できるのでしょうか?

マルクスは、労働が剰余価値を生み出しているからだと考えました。
物を生産するためには、生産手段と労働力が必要です。生産手段とは、土地や工場、設備、材料などあらゆるものを含みます。しかし、生産手段は剰余価値を生み出しません。なぜなら、例えば1万円の商品を作るのにかかった5,000円の材料費は、商品の価格の一部に転嫁されるだけなので、ただの等価交換になるからです。土地や工場、設備の購入費用も同じことで、かかった費用がそのまま価格に転嫁されるだけです。

一方、労働力は違います。すべての生産要素の中で唯一剰余価値を生み出せるのが労働力です。端的に言うと、資本家が支払っている賃金以上の労働を労働者にさせることで、剰余価値を生み出しているのです。つまり、労働力の交換価値よりも使用価値が高いということです。

労働のうち、賃金支払い分の価値の労働を必要労働、賃金支払い分を超えた労働を剰余労働といい、剰余労働が剰余価値を生み出します
剰余価値を生み出す方法は2通りあります。ひとつはシンプルに労働時間自体を伸ばす方法で、こうして生まれた剰余価値絶対的剰余価値といいます。しかし、1日は24時間しかない上、労働者も適度に休ませないと、労働力の再生産ができなくなってしまいます。
そこで出てくるのが相対的剰余価値です。相対的剰余価値は、必要労働時間を短縮し、その分を剰余労働時間に充てることで生まれる剰余価値です。つまり、今まで5時間かかっていた作業を3時間でできるようにすることで、2時間分を剰余労働に回すことができるということです。

必要労働時間の短縮に必要なのがイノベーションです。
イノベーションによって生産プロセスを改良し生産性が上がれば、商品を他社よりも安い価格で販売することができ、企業は剰余価値を享受できます。
しかし、相対的剰余価値は一時的なものです。なぜなら、競合他社は模倣によって同じ水準まで価格を下げてくるためです。よって、無限にイノベーション競争が行われることになります。すると、労働の価値はどんどん下がり、最終的には非正規社員外国人労働者で労働力を賄うようになっていきます

マルクスは次のように述べています。

労働時間短縮のためのもっとも強力な手段が、労働者およびその家族の全生活時間を資本の価値増殖に利用されうる労働時間に転嫁するための、もっとも確実な手段に一変する。

機械の導入やイノベーションは、人の仕事を楽にするどころか、全生活時間を資本の価値増殖のための時間に転換してしまう装置なのだというわけです。

皆さんの会社でも、新しいシステムを導入したはずなのに、なぜか前より残業が増えているといったことはありませんか?
これこそまさに、生活時間が労働時間に転嫁されているということです。

この部分を読んで、私は「なるほどな!」と深くうなずいてしまいました。
一方で、こういう疑問を持ちました。
マルクスが言うような、生産性を向上させる、いわゆるプロセス・イノベーションではなく、新たな価値を顧客に提供するプロダクト・イノベーション資本論的にどう考えたらいいんだろう?
マルクスの言う無限のイノベーション競争から抜け出すために、プロダクト・イノベーションが必要ということなのか?答えはまだ出ていませんので、引き続き考えていきたいと思います!

②資本主義社会=商品による商品の生産が行われる社会

マルクスは「資本論」の中で資本主義社会を分析しているのですが、明確に「資本主義の定義はこれだ!」という形で述べてはいません。これについては、本書の著者が「資本論全体を読むと、こういうことだろう」という定義を、次のようにまとめてくれています。

「物質代謝の大半を商品の生産・流通(交換)・消費を通じて行う社会」であり、「商品による商品の生産が行われる社会(=価値の生産が目的となる社会)」

物質代謝とは、物を入れたり出したりして生命を維持することです。例えば生き物は食物を食べて栄養を吸収し、それを排出することで生きています。
このプロセスの大半が商品を経由してできているとはどういうことでしょうか?
例えば、私たちはスーパーで野菜を買ってきて食べています。この野菜を作るためには、野菜の種や肥料、トラクターなどの設備、土地やそこで働く労働力が必要です。そして、これらはすべて市場で売買される商品です。つまり、商品を作るために商品が必要なのです。

さらに言い換えると、資本主義は「土地」と「労働力」が商品化された社会ということができます。

③資本主義が始まる条件は?

マルクスは資本主義社会は必然的なものではなく、歴史的な背景によって偶然に生まれた社会体制の1つでしかないと述べています。

本書では、資本主義が始まる条件(これを本源的蓄積といいます)として、次のように紹介されています。

①貨幣・生産手段・生活手段の所有者

②労働力の販売者である自由な労働者

が出会うことこそ、資本主義の始まる条件である、とマルクスは考えます。

さて、この「自由な」という言葉には二重の意味があります。それは、①身分制から解放されている、②生産手段を持たない、ということです。封建制において領主の私有物だった農民は、近代化によって身分制から解放されると同時に、農地からも追い出され、生産手段を奪われました。その結果、都市の工場で自分の労働力を販売して生計を立てるしかなくなり、これが資本主義が始まる条件となったのです。

本書ではこれを、「就活生」に例えており、この例えが秀逸に感じたので、紹介します。
就活生は職業選択の自由が認められており、自分の就きたい職業を自由に選ぶことができます。一方で、生産手段を持たないため、自らの労働力を企業に販売することで生きていかなければなりません。つまり、就活生は①②の条件を共に満たす労働者予備軍であり、筆者曰く就活とは、「労働力商品の買い手を探すこと」なのです。

まとめ

いかがだったでしょうか?
本書を読んで私が一番感じたことは、資本主義社会である以上労働者は搾取され続ける運命にあるのであれば、自由を得るためには資本の側に回らなければならないということです。

例えば、最近よく耳にする「働き方改革」は、労働者のための善意の施策などではなく、資本側が搾取する相手(労働者)を減らさないための救済措置である、と本書では書かれています。

資本主義の矛盾が随所に現れ始めた今だからこそ、改めて「資本論」を学ぶ意義があると思いますので、皆さんもぜひ本書を手に取ってみてください。今までにない視点で社会を見ることができると思います。
私も再度、「資本論」の原著に挑戦してみたいと思います!