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【書評】SDGsは生ぬるい?【人新世の「資本論」】

今回は、2021新書大賞にも選ばれた、斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』をご紹介したいと思います!

私とこの本の出会いについてですが、実は特別この本が読みたかったというわけではありません。年始に実家に顔を出した際、帰り際に父親から「これ、貸したるわ」と言って手渡されたのがきっかけでした。
その後、しばらく放置していたのですが、新書大賞に選ばれた本であることや、経済学の視点から環境問題を取り扱った本であることから興味を持ち、読んでみることにしました。

それでは、内容の方に入っていきましょう!

 

どんな人にオススメ?

皆さんはSDGsという言葉をご存知でしょうか?
知らない方のために簡単に説明すると、SDGsとは、日本語で「持続可能な開発目標」と言われ、持続可能でよりよい世界を目指すために定められた国際目標で、17のゴールから構成されています。最近はSDGsのゴールを目標として掲げている企業も増えてきましたので、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
そして、SDGsの背景には「経済成長」と「環境危機の解決」を両立しようという考え方があり、「気候ケインズ主義」と呼ばれています。

しかし、著者は気候ケインズ主義のスタンスでは環境危機を解決できないと批判した上で、経済成長は諦めて「脱成長」を目指すべきだとし、本書の冒頭で次のような衝撃的な言葉を述べています。

かつて、マルクスは、資本主義の辛い現実が引き起こす苦悩を和らげる「宗教」を「大衆のアヘン」だと批判した。SDGsはまさに現代版「大衆のアヘン」である。

つまり、SDGsは問題を先延ばしにするだけの甘い誘惑にすぎないと言っているのです。
確かに、近年のSDGsのごりゴリ押しっぷりを見ると、どうも綺麗事で済ませようとしている雰囲気を感じざるを得ません。

ということで、本書は次のような方にオススメです!

  • SDGsってなんか綺麗事に感じるんだよな〜」と斜に構えて見ている方
  • 今後、地球の破滅を防ぐには、どう行動すればよいかを真剣に考えたい方
  • 経済学やマルクスの考え方に興味がある方

どんな本なの?

前述の通り、著者は既存の資本主義の枠組みでは、目前に迫っている環境危機を解決することはできないと述べています。では、どうするのか。

ここで登場するのが、マルクスの「資本論です。一般的にマルクス主義と言えば、ソ連や中国の共産党による一党独裁と生産手段の国有化など、時代遅れで、危険なものというイメージが強いと思います。
しかし、著者は最新のマルクス研究の中で、マルクスが晩年にたどり着いた「脱成長コミュニズム」という考え方を発見し、これこそが環境危機を解決するカギであるとして、この考え方に基づいて私たちが起こすべき行動を提示しています。

数百年も前に生きたマルクスは、資本主義を続けた先に待つ未来を予言し、その解決策まで提示してくれていたという事実には、びっくりさせられますよね!

では、ここからは、特に個人的に心に響いたポイントに絞ってご紹介していきます!

心に響いたポイント

①私たちの生活は途上国の犠牲の上に成り立っている?

現在先進国に住む私たちは、対価さえ払えば欲しい物は何でも手に入れられる、大量生産・大量消費を前提とした資本主義の世界で生活していますが、これが途上国の犠牲の上に成り立っていることを、普段意識できているでしょうか?著者は、次のように述べています。

中核部での廉価で、便利な生活の背後には、周辺部からの労働力の搾取だけでなく、資源の収奪とそれに伴う環境負荷の押しつけが欠かせないのである。

このような、途上国からの資源やエネルギーの収奪に基づいた先進国のライフスタイルを「帝国的生活様式」といいます。

例えば、作物の生産について考えてみます。途上国では自国の経済成長のために、自分たちが食べる分の作物よりも、先進国で「売れる」輸出用の高品質な作物を優先して栽培します。その際、高価な農薬も自分で買わなければなりませんし、自分たちの食べる分の作物はほとんど作れません。
また、労働者は過酷な労働を強制され、先進国が求めるスピードで栽培するために、土地を休ませることなく、土地の栄養分を搾り尽くすような生産が行われます。こういった状況が、近年、様々な現象や、事件や事故となって表出してきているのです。

こうした先進国による負荷の押し付けを「外部化」といい、資本主義は見たくない不都合な現実を、あえて周辺部に押しやって見ないようにしてしまうのです。

いかがでしょうか?私も読んでいて、心にグサグサ突き刺さるものがありました。

②地球全体をみんなで管理する

 それでは、不公平な外部化社会を是正し、みんなが平等に資源を使い合う、環境にやさしい社会を作るにはどうしたら良いのでしょうか?

そこで登場するのが、「脱成長コミュニズム」です。「脱成長コミュニズム」とは、簡単に言うと、経済成長を目指さず、生活に必要なもの、引いては地球全体をみんなで管理する社会です。

共同体で管理する対象を「コモンズ」といいます。水や土地、さらには設備などの生産手段さえも一部の資本家が独占するのではなく、労働者の手で共同管理しようというものです。

例えば、土地について考えてみましょう。
今、都内でそれなりの家を借りようとすると、数万〜数十万の家賃がかかります。これは、土地が一部の人によって独占され、「希少性」が生み出されることによって、その「希少性」に価格がついているためです。
そこで、土地を一部の人間の独占から解放し、共同管理することにします。
すると、「希少性」がなくなり価値が下がるため、みんなが平等に低価格で家を借りれるようになります。
また、これによって労働者は、高い家賃のために働く必要がなくなるため、労働時間も減り、余暇を楽しめるようになります。
さらに、共同管理によって、一部の人間が過度に収奪を行うことを監視することになるため、平等性を担保できるとともに環境破壊も防げるようなるのです。

皆さんは「なんでお金なんか存在するんだろう?お金なんてこの世になければ、もっと幸せに暮らせるんじゃないの?」と思ったことはありませんか?私はあります。
最終的には、そんな空想は無意味だなと思い、現実に引き戻されるのですが、そんな空想を、より精緻に、より論理的に、実現可能な形で突き詰めたのが、この「脱成長コミュニズム」ではないかと思います。

一方で、現在の資本主義社会で既得権益を握っている資本家が、そう簡単に資源を手放すのかというと疑問が残ります。

また、人類の歴史は資本主義が成立する以前から、支配のための争いの連続です。よって、人間の支配したいという欲望は不滅ではないかと思います。私自身も、人から賞賛を得たい、人より優れていたい、人より上に立ちたいと言う気持ちが原動力になっていたりします。
そういった既得権益や支配欲をいかに抑え込んで、革命を起こせるかが重要なのだと感じました。

③資本主義は「希少性」を作り出すシステムである

先ほども少し触れましたが、価格や価値は「希少性」につけられます
例えばロレックスの腕時計は、「時間を見る」という機能としてはカシオの腕時計と大きな差はないでしょう。
では、なぜ高価な値段が付いているかというと、持っている人が限られており、「希少性」があるからです。高級ブランド品はその最たる例です。
つまり、資本主義こそが「希少性」を作り出すシステムなのです。
著者はこのことをすごくわかりやすくまとめてくれているので、少し長いですが引用したいと思います。
コモンズとは万人にとっての「使用価値」である。万人にとって有用で、必要だからこそ、共同体はコモンズの独占的所有を禁止し、協同的な富として管理してきた。商品化もされず、したがって、価格をつけることもできなかった。コモンズは人々にとって無償で、潤沢だったのだ。もちろん、この状況は、資本にとっては不都合である。
ところが、何らかの方法で、人工的に希少性を作り出すことができれば、市場はなんにでも価格をつけることができるようになる。(中略)
土地でも水でも、(中略)「使用価値」は変わらない。コモンズから私的所有になって変わるのは、希少性なのだ。希少性の増大が、商品としての「価値」を増やすのである。
その結果、人々は、生活に必要な財を利用する機会を失い、困窮していく。貨幣で計測される「価値」は増えるが、人々はむしろ貧しくなる。いや、「価値」を増やすために、生活の質を意図的に犠牲にするのである。
というのも、破壊や浪費といった行為さえも、それが希少性を生む限り、資本主義にとってはチャンスになるからだ。破壊や浪費が、潤沢なものを、ますます希少にすることで、そこには、資本の価値増殖の機会が生まれるのである。
気候変動が、ビジネスチャンスになるのもそのためだ。気候変動は水、耕作地、住居などの希少性を生み出す。希少性が増えれば、その分だけ、需要が供給を上回り、それが資本にとっては大きな利潤を上げる機会を提供することになる。
これが、惨事のショックに便乗して利を得る「気候変動ショック・ドクトリン」である。(中略)
「使用価値」を犠牲にした希少性の増大が私富を増やす。これが、資本主義の不合理さを示す「価値と使用価値の対立」なのである。
つまり、私たちを豊かにするためのはずの資本主義が、逆に私たちを苦しめるという本末転倒が起こっているのです。さらに、著者はこうも述べています。
私たちは、十分に生産していないから貧しいのではなく、資本主義が希少性を本質とするから、貧しいのだ。

資本主義は富を生み出すシステムなんかではない。欠乏を生み出し、人間の欲望を駆り立てるシステムなのだ。つまり、このシステムを根源から断ち切ることで、環境危機を食い止めていこうというのが、本書の主張になっています。

まとめ

いかがだったでしょうか?現在の日本人は、おそらく生まれた時から資本主義の社会で生活しており、それ以外の社会を知りません。私も今の社会が当たり前で、普通なのだと思って生きてきましたが、当然海外には社会主義の国もありますし、昔は資本主義が当たり前ではない時代もあったはずです。この本を通じて、改めてより良い社会を模索する必要性を感じました。
他にも色々とご紹介したい部分があるのですが、長くなってしまうので、この記事ではこれくらいにしておきます。是非本書を通じて皆さんもよりよい社会について、考えてみてはいかがでしょうか?